今回は当店一番人気商品、名刺入れ【LETTER 横型】のその後を追うということで、実際に購入いただいた方のご感想を交えながらのコラムになります。
名刺入れ【LETTER 横型】は【LETTER タテ型】と共にLuteceの革職人:高橋秀行氏の作品です。LETTERは文字通り便箋の形をしているので名付けられた名前ですが、便箋の形をしている名刺入れは他社や他の革職人も販売しています。それほど珍しいということはありません。
ではどうして【LETTER 横型】が人気なのか?実際に毎日使っていただいている方からのご意見が一番参考になりました。実は販売責任者である私も知らなかったことでもあります。
イタリア最高級オイルレザーのエイジングの見事さ
名刺入れはビジネスの場で使うものなので、私の友人知人にも【LETTER 横型】を購入していただいた方も多く、気に入って使っていただいています。先日お世話になっている方(女性)に食事に連れて行っていただいたときに、その方が約1年半前に買われた【LETTER 横型】のオルテンシアを見せていただきました。
それが見事なまでに美しいエイジングを遂げていて驚きました。私の中ではもちろん買っていただいたことは覚えていましたが、それがいつごろなのかは定かではなく(後で調べたわけですが)、その名刺入れは確実に時を刻んでいたのです。
アドリア海をイメージしたオルテンシアのブルーは、温暖な海に現れる深緑が少し混じった濃い蒼にへエイジングしていました。私が持っていた同じ革のマネークリップ【CARVA】のオルテンシアと比べていても、また違う色艶になっていて使う人によって同じ革でもエイジングが違うのだなぁと改めて思い知らされました。
共通しているのは、その方も私もまったく一度も手入れをしていなかったこと。
私は仕事柄色々な自社製品を使っていて、お手入れをする商品としない商品を決めています。イタリア革:ミネルバリスシオはコロニルという革の栄養クリームを塗ると、より艶が出てテカリ具合がアップします。
このコロニルは製作者であるLuteceの革職人:高橋秀行氏も商品の完成後の仕上げとして、塗っていますが、彼の中では自らの手で作り終えた作品を送り出す儀式のようなものなのでしょう。
話を元に戻すと、イタリア革:ミネルバリスシオはオイルをたっぷり塗りこんだオイルレザーであるため、特に手入れをしなくても中のオイルが溶け出し全体を覆っていきます。これは上質なオイルレザーにしか現れない現象で、ほとんどのヌメ革やクローム革では保湿力が失われ乾いたような状態かひび割れたようなカサカサ感が出てきます。
高級革といわれる所以はそこにあり、実のところ革の仕入れ価格も高いのです。良い素材を使って良い職人が丹精こめて作り上げた作品は値段も高級にはなりますが、長い期間楽しめるという付加価値は十分にあるといえます。
「気に入っているので毎日使っていて、いつもこうやって触っているのよ」その方はうれしそうに言ってくれました。いつもやさしく撫でられる名刺入れは私のマネークリップよりも色艶が豊かなのは愛情がこもっているからなのでしょう。
「傷は気になりませんか?」と私が聞くと「最初の傷はショックだったけど指でもむとわかりにくくなったし、その後の傷はまったく気にならなくなりましたよ」確かによく見れば使った分の細かい傷はあれど、それが気にならなくなるほどに深くなった色艶に溶け込んで、元々そこにあった傷跡のようにそこに佇んでいました。
その店におられた常連さんの中にその方の親しい方もおられて、男性の方で名刺入れ【LETTER 横型】のタバコを愛用されている方とも出会いました。その男性も1年半弱毎日使われていて、そのエイジングも実に見事なものでした。
タバコは古いヨーロッパの紳士が吸っていたかのような葉巻よりも濃いこげ茶色が特徴の革です。タバコのエイジングは以前にも何度も見たことがありますが、その方の名刺入れはまた違ったものでした。コーティングされたテカリのような艶加減が全体を覆い一目で手入れが行き届いているなぁという印象でエイジングのお手本のような見事なものでした。
通常なら濃いこげ茶がさらに濃くなるイメージですが、濃くなるだけでなく艶感が増しているため少しオレンジが入ったような明るさを帯びた濃いこげ茶だったのです。(伝わるかなぁ)これには私も驚き丁寧に保湿をすればより輝くのだなぁと改めて思いました。
使い方は皆さんそれぞれで同じ革、同じ色でもひとつとして同じエイジングを辿っていない。何個かを並べればすぐに「これが私の物もの」と気付くほどに個性的にすくすくと育っています。
より立体的に。計算された名刺を収める箱という役割
革職人の手作り感を体感できるということではこの名刺入れ【LETTER 横型】は特にわかりやすい商品であるといえます。それは使うごとに名刺を収める箱としての役割を忠実に果たしていくということです。
どういうことかというと、イタリア革:ミネルバリスシオは内部の繊維がびっしり詰まっているため、最初はハリがあって閉めたときのフタの部分を含め浮いたような膨らみのある丸みの帯びた形状になっています。それが使うほどに革がやわらかくなり馴染んできて収まりがよくなっていきます。
これが上質なオイルレザーの特徴で、名刺入れ【LETTER 横型】の場合は革の厚みが一番良い良い状態の原圧と呼ばれる厚みで製作しています。これはもちろん製作者であるLuteceの革職人:高橋秀行氏の意図するところで、原圧というのは革を作ったイタリアの名門タンナーが出荷した状態の革ということです。
イタリアの名門タンナーは長い歴史があって革が一番良い状態(長く使っても丈夫で風合いも損なわれない)であろう厚みで出荷しています。このことを高橋氏は理解し、その厚みで名刺入れ【LETTER 横型】を製作しています。
一番良い状態の厚みで作られた名刺入れは、使うほどに内部の繊維がほぐれやわらかくなっていき、ぴったりと閉まるようになります。箱としての完成形に近付くということです。そこの部分の折りたたんで重なっている部分やフタの差込部分の収まりがよくなってくるのです。
立体としての完成を使い込んでいくうちに感じられるというのも、革職人による手作り品の素晴らしさではないでしょうか。